19人が本棚に入れています
本棚に追加
「お嬢。コイツは何者です?」
「客人……コルン。お茶を」
「へい。少々お待ちを」
男は腑に落ちないと言いたげにシャルラを見たが、すぐに溜め息を漏らして店の奥へと引っ込んでいった。店の中は茶屋らしくいくつかの机と椅子が並んではいるが、誰一人として客がいない。
がらんとした店内には、外を行き交う人々の声や音が僅かに響いていた。
「お茶? のんびりするの?」
「そんなわけないでしょう。何処でも好きなとこに座って」
シャルラに促され龍生が近くの席に座ると、二十代半ばの女が店に入ってくる。和服をしっかりと着こんだ彼女の手には紺の包みが握られていた。女性はシャルラとすれ違う瞬間に微笑むと、龍生の後ろの席に座った。
「どうぞ」
シャルラにお茶を頼まれた男が龍生に茶を出すと、龍生の向かい側にシャルラが座る。
「コルン。あの着物は良くなかったわ」
「そうですか。お嬢の要望に応えられる物は中々無いようで……すみません」
男が申し訳無さそうに話すのを見ながら、龍生は出されたお茶を啜った。シャルラが眉間に皺を寄せて、明らかな不満を表す。
「シャルラちゃんが探している着物なら西宮の繁華街で見たわ」
先ほど入ってきた女がやんわりとした雰囲気で話した。
最初のコメントを投稿しよう!