二人の世界は世界の終わり

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 私達は海辺を背にしたまま、別れを告げた。  「――こんなに遠い所まで、ありがとう」 「いいよ、いいよ。大丈夫。また――ね」  私は言葉の意味を軽く受け止めてから、一時間に数本しか停まってくれやしない駅まで、歩むことをやめなかった。  帰りは既に街中のネオンが光り輝いている時間帯だったから、少々、歎きに近しい感情に振り回されながら、女子寮まで歩いた。風も空気も空そのものでさえも、私がその日に見た世界と、全く違う気はしてた。  女子寮の寮母さんには挨拶も何もせずに、ひとまず自室に縫い入るように、静かに向かった。  たったワンルームの、それでいて壁は薄い、とても立派とは無縁の、昭和の名残そのままの部屋は、私をやっと現実世界に引き戻したみたい。明日の用意もしていないことに気づき、洗濯も乾かさぬまま飛び出した、午前の部屋、その時の空間が、捨て忘れた東京の風景だったのなら、私はこの景色を選び、みんなに自慢していたのかもしれない。  掃除も後々に、食事とお風呂を整えた後、私は次の授業の予習を始めた。  それはデッサン。画用紙いっぱいを使っていいから、自由性に溢れた何かを描いて欲しいとの、美術大学からの宿題だった。  私は今朝、その問題を直視して見つめたあげくに、気づけば狭い部屋を飛び出し、友人を引っ張り、二人、海岸沿いに腰かけていたのだ。  自由性、特に、別に、何も浮かびはしない、けれど、私は絵について、青々と輝くあの海岸沿い以外、描ける気がしなかった。  ――。  その日は朝方まで、絵に集中していたから、前後の記憶もあやふやだけど、私は一応のものを仕上げられて微笑んだ。  青々とした朱い海と岸辺。  私にとっての数少ない、自由の場所。  その後、風呂がぬるま湯に変わり果てていて、残念になったことはあまり思い出したくはない。
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