二人の世界は世界の終わり

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 春の陽気な心地好さに、私は辺りかまわず熟睡していたようで、担当の顧問らしき人が教室の雰囲気を盛り上げるまで、私は気づかなかったみたい。  昨日の私の表情とは全然違う、ただの空回りした私の姿がそこにはあったのだろう。  急いで鞄からデッサンを取出して、後ろの方から歩み寄ってきた人に、頷きながら手渡した。  その人はなにげにもない仕草で、私のスケッチブックを持って、教室の前まで歩いていた。  私のほかは二十人ほどの小規模なクラスメイトの姿が、いたる所に目に映った。  顧問の教師は、中年だったが若い雰囲気と老いた雰囲気を両手に持っていたような人格をしていそうな印象を受けた。これが多分、渋い、って表現なんだと思う。  教師の声が聞こえ、春爛漫の陽気に満ちた教室は、瞬くまに活気づいたようすだった。  そこに新芽が根付いただけのこと。
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