コイン編①~アドバ・ヒロの憂鬱~

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と、その時、突然デスクの上の電話が鳴り響いた。 ソファーから手を伸ばし、受話器を取る。 「はい。もしもし。明るい笑顔に暗い過去、アドバ・ヒロです」 よくわからないキャッチフレーズを並べながら、だるそうな声でしゃべる。 「もしもし?アタシアタシ」 「誰?」 「アタシだって!ア、タ、シ」 「田村亮子?」 「そうそう。田村亮子。実はちょっと事故っちゃってさ~。金貸してくんない?」 「田村でも金、谷でも金、ママでも金!」 そう言って、ヒロⅢ世はガチャリと電話を切る。 『振り込め詐欺』はいつかかってくるかわからない! みんなも気をつけよう! と、もう一度電話が鳴った。 ヒロⅢ世は電話を取ってすぐさま、 「言っとくけど俺は巨人の谷じゃねぇから!」 と叫んだ。 「は?」 さっきの女の声ではない。 やけにしわがれた声だった。 「あ、なんだ。“じいや”か」 「え?谷って何?」 「谷は谷。それ以上でもそれ以下でもない」 「あっ、そう……」 しばらくの間、二人を静寂が包み込んだ。
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