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と、その時、突然デスクの上の電話が鳴り響いた。
ソファーから手を伸ばし、受話器を取る。
「はい。もしもし。明るい笑顔に暗い過去、アドバ・ヒロです」
よくわからないキャッチフレーズを並べながら、だるそうな声でしゃべる。
「もしもし?アタシアタシ」
「誰?」
「アタシだって!ア、タ、シ」
「田村亮子?」
「そうそう。田村亮子。実はちょっと事故っちゃってさ~。金貸してくんない?」
「田村でも金、谷でも金、ママでも金!」
そう言って、ヒロⅢ世はガチャリと電話を切る。
『振り込め詐欺』はいつかかってくるかわからない!
みんなも気をつけよう!
と、もう一度電話が鳴った。
ヒロⅢ世は電話を取ってすぐさま、
「言っとくけど俺は巨人の谷じゃねぇから!」
と叫んだ。
「は?」
さっきの女の声ではない。
やけにしわがれた声だった。
「あ、なんだ。“じいや”か」
「え?谷って何?」
「谷は谷。それ以上でもそれ以下でもない」
「あっ、そう……」
しばらくの間、二人を静寂が包み込んだ。
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