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思い出
「ねぇ、おひっこししてもわすれちゃやだよ」
そう言いながら、小さなソイツは肩を震わせて泣いていたんだ。
俺はというとちいさいながらに頭をフルで回転させて、どうすれば目の前のやつを笑わせられるかを考えて、考えて、ぐっとそいつを見つめた。
ひっく、ひっく、と正に泣いています、というそいつにできる限りの優しい声で言ってみた。
「ねぇ、指切りしない?」
「指切り?」
小さな俺にゆっくりと、泣きすぎて桜色に染まった顔をむけて、不思議そうに聞いてくる。
「そう指切り。小指、だして?」
「うん」
素直に目の前にふっくらした指をだしてもらえたので、自分の小指もだして、それから、指を交差させた。
「ゆーびきーりげーんまーん、うそついたらはりせんぼんのーます」
「ゆーびきった」
幼い俺達の声が、綺麗に重なって、桜の花びらの絨毯は分解されて辺りに散る。
でも記憶はここで終わり。
綺麗に覚えてるのはここまで。
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