1349人が本棚に入れています
本棚に追加
ーーーーーー……
「……くそっ」
暗闇の中で、毒づく声がした。
とはいっても、他に人気の無い今の時間帯の商店街で、この声を聞くものはおらず、ただ虚しく冷たい風がなびくだけだが。
だが、その声を出した仮面の男は、微塵も気にするしぐさも見せず、自身のコートを握り、、飛ばされないようにしながらも、とある喫茶店の前に立ち尽くしていた。
しばしの沈黙の後、意を決したように喫茶店の扉に手をかけ、開くと同時に自分の仮面を剥がし、中に放り投げる。
だが、仮面が下に落ちる音は、いつまで経っても響かない。その代わりに……
「おかえり」
いつもと変わらない言葉が、辺りに響いた。一般家庭にでも、どこにでもあるような、待ってる側の温かい言葉。
だが、そんなものは“彼”には必要がない。
「……どういうつもりだ」
「何のこと?」
「とぼけんな。知ってたんだろ?」
鈴の言葉をもろともせず、緋音は結論を焦るように、動揺を何かで装うように息を吸った後、
「真が騎士団の人間で、今日俺と出会う可能性があることを、てめぇは知ってたんだろ?」
何かを求めるような瞳で、緋音は問う。
だが鈴は、それに対して何も動じることはなく、ただ一言、告げた。
「そうね」
「……何のつもりだ?」
「仮面はあげたでしょ。だから正体もバレない。これで騎士団とも安心してーー」
「そうじゃねぇ!!」
緋音が、鈴の言葉を遮るように言い放ち、その胸倉を掴み、持ち上げる。
そして、小さく、呟くように言った。
「……なんで、俺とアイツを、巡り会わせたかって聞いてんだ」
蚊の鳴くように細く、そして悲しみを全て詰め込んだように聞こえるその声は、静かに暗闇の中に響いた。
最初のコメントを投稿しよう!