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その、瞬間。
ゴリラの魔物は、口を開け、唖然とした表情に固まった。
確かに、魔物の本能が生み出した答えは正しかった。
葵の矢筒には矢はもう残っていない。空っぽの状態。
確かにそこまでは、魔物の予想通りだったのかもしれない。
だが、問題はそこではない。
否、問題は葵ではない。
問題は……
“緋音がいつの間にか黒龍刀をその手に収めている”……その一点。
葵は、作戦成功とばかりに笑顔を見せ、ペロッと舌を出していた。
勝利を確認したと言わんばかりに。
『ガアアアアアッッッッ!!』
魔物は凄まじい叫びを上げながら、彼ら二人の元に向かってくる。
魔物はその刀を一度腹に浴びている。だからこそ、その凶器の恐ろしさをわかっている。そこからの恐怖、危険性を感じたのか、凄まじい形相で走ってくる。
だが、勝敗はもう決まっていた。緋音はゆっくりと刀を振り上げ、
「“黒閃刃”」
何もかもを切り裂く勢いで、黒い刃を飛ばした
その2秒後。
全く音のない静寂な空間で、ゴトンと魔物の首が落ちた音がした。
その首が切れた断面から血が噴出し、真っ二つになった赤い首輪が地面に冷たく落ち、
「……やっと終わったな」
一つの生命が失われ、勝敗は決した。
緋音はそのままゆっくりと自身の腰を下ろし、背中にもたれかかったまま地面に座り込んだ。
「……よし!」
緋音の足の治療を完了し、葵はつい笑顔でガッツポーズをとる。
現在の位置は一階。それぞれ魔物の清掃も終わったようで、全員集合といった形になっていた。
「……で、本当に大丈夫だったの?三人とも。大体の話しは聞いたけど……」
「『二人』の間違いだろう、秋宮。俺は魔物と緋音が下に落ちた時、魔力の使いすぎで動けなかったからな」
「ふ~ん……でも本当にどうやって倒したのよ二人共?緋音と真で協力して腹を貫いたのに、死ななかったんでしょ?」
神崎のその言葉に、うんうんと頷くギルド部員だったが、倒した張本人の一人、葵は「たまたまだよ」と、謙遜した言葉を発した。
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