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「魔力は大丈夫?昼間に使い過ぎてないの?」
「最小限に留めて使ったからな」
「そう」と小さく返事をする鈴。着替え終わった緋音は、ひとまず武器を背中と服の間や、腰のベルトなど、様々なところに装着する。
相手が一目見ても、自身の武器の内容、外様を見えにくくさせるためだ。
「なぁ、この服のデザイン、前と少し変わってないか?前より全体的に黒で隠れるようになったっていうか……」
「……その方が自分の武器とか隠しやすいでしょ?それとこれも着けておきなさい」
「はい」という言葉と同時に、鈴が緋音に渡したものは『仮面』だった。
口元だけ開けてあるタイプで、他の場所は目の位置しか穴が空いてることはない。
デザインでいえばカラスをイメージしたようなものに近く、闇によく染まりそうな仮面だ。そこからは不気味ささえ漂ってくる。
「……なんでこんなものを?」
「いいから着けときなさい。今までは服の襟部分とかを使って顔を隠してきたんでしょうが、これからはそう上手くはいかないかもでしょ?」
「だが、なんでいきなり……」
「用心を重ねただけよ。
それとその仮面は伝説の忍び、『風魔』一族をかたどったものだから割らないようにしなさい。かなり貴重よ。ちなみに風魔一族っていうのは、『風間』『風馬』『風摩』などという風に、幾つもの代にわかれて育ったらしいわ。戦国時代に生存していた『風魔小太郎』が、影武者として15人いたところからそうわかれたのかはわからないけれど、そのわかれた代の中でも『風間 凶』は何やら特別だったらしく、本当に忍術を使えたという伝説もーー」
「それじゃあ行ってくる」
喋りだしたら止まらない情報屋、橘鈴をおいて、緋音は喫茶店の扉を開けると同時に、サッサと走っていってしまった。
それでも鈴は止める機会を失ったのか、何やらしばらくそのまま説明を続けていたようだが、やがて緋音が完全に行ってしまったことを理解すると、その口を閉じた。
そして溜め息を一つつきながら、
(……運命って、結構残酷なものよ、緋音)
一人になった喫茶店でそれだけ思った鈴は、近くにあった灰皿をとり、おもむろにタバコを吸い始めた。
「先輩、巡回って俺達二人だけで大丈夫なんでしょうか?」
同じ頃、同じ街には、彼の見知った者が近づいていることは、緋音自身、気づくはずもなかった。
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