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黒が街を包み込む、夜中と言わざるをえない時間帯。
その街中では、真とやる気のなさそうな25~30代くらいの一人の男が、騎士団の制服を来て淡々と歩き、何やら話し合っているようだった。
真の素朴な質問に、先輩と呼ばれている男は言葉を流すように答える。
「……あ~そうだな。とりあえずここら周辺の地帯を適当にふらつき、不審者らしき人物を見つけたら逮捕する。
それが俺達の任務だが……実際にそんな奴はほとんどいないだろうから、二人なんていう少人数でやらされてんだよ。
一応巡回してますっていう形だけでも作らなくちゃ、市民共から騎士団は何もしていないだとか、鬱陶しい苦情がくるからな。サッサと終わらせて帰ろうぜ。」
「は、はぁ……」
明らかにだるそうなその声に、思わず落胆する心を押さえつけ、生返事をする真だったが、せっかく騎士団の見習いとしての初任務がこんな感じでは、やる気を落とすのも無理はない。
それからしばらく二人の足の歩く音だけが辺りに響いたが、突如その先輩が口を開いた。
「……そういやお前、なんで騎士団に入ったんだっけか?しかも高校生で見習い合格か。そんな急いで騎士になる必要があったのか?」
「出来るだけ早く、父のようになりたいと思っただけです。騎士になって、世の中の秩序を安定させる……俺は父のその生き方に、昔から憧れていましたから」
「?父のように……?え?お前まさか……あの有名な猪狩家出身か?ってことは、お前はあの猪狩元騎士団長の一人息子ってのは……」
「はい、俺のことです」と、真がしっかりとした声で返事をすると、男はうっはぁ、と驚きを詰め込んだような声を上げる。
「……嘘だろ?俺はそんな優等生と一緒に仕事してんのかよ……」
その言葉を聞いた瞬間、真の心が、ズキンと、痛んだ。
猪狩家の名前を出した途端に、相手の顔色が変わり、態度も変わる。これは今に始まったことではない。
媚びへつらい、機嫌をとろうとする者達や、『名門貴族』の人間と言うだけで自分に近づかない者達。昔からのこと。
真は、それにウンザリしていた。
そしていつしか、彼にとってそれは、当たり前になってしまった。
そう、そのはずだった。
だが、その当たり前のことに、真の心は傷ついた。
『彼ら』と会うまでは、そんなことは無かった。
緋音達と会うまでは。そんなこと、気にするまでもないことだったのに。
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