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そしてそのまま両手を上げ、
「…………はっ」
壁に向かって両手を素速く振り下ろした。焼き焦げたような切れ跡と、凍りついたような切れ跡とが交差する形で部屋の角の壁に刻まれる。
(……これで印はついた。後はここらの金品全部奪って、平民の奴らに与えりゃ終わり。軽いもんだな)
暗殺者は、それだけ思うと、最低限の動きで2本の刀を鞘に納めて、案外部屋の目立つところにあった金庫を触り、中の状態などを確かめ、
(……この程度の金庫ならなんとかなりそうか)
ある程度調べ終わった途端に、腰から拳銃を抜き、金庫に向かって一切の迷いなく連射していく。
鍵の部分に集中して撃たれた銃撃は、金庫自体の塗装が剥がれ落ちてもおかしくないほどの速度と数で撃たれ、数分もしないうちに鍵も壊れた。
無論、彼は銃撃音を極力鳴らさないよう、サイレンサーはつけておいたが、鍵に銃弾が当たる音までは消すことは出来ない。
少量の火花が散り、辺りには少し金属音の余韻が残ってしまっているという今の状況。
……だが、それでも誰も来る気配はない。
それが今の国だ。
騎士など、頼りにはならない。市民の身を案じたからといって、命令されていないことをするはずもない。
それが騎士団。上からの命令でしか動けない、数の集まり。
それが嫌と言うほどわかっている彼は、銃を撃った体制のまましばし固まると、何かを思いつめたように唇を噛んで、銃を腰のコートの下に隠す。
ちなみに、今の彼はパッと見では『村雨 緋音』だとは分からないようにしてある。
チャームポイントである黒髪は、後ろでポニーテール状に一つに縛り、コートと背中の隙間に入れていて、傍目には軽い短髪にさえ見える。
そして、全身を包むような黒装備の下に、隠すように持っている武器。
そして口元を隠すコートの襟。極め付きには、カラスをかたどったような漆黒の仮面。
そんな様々なところに色々なものを隠し入れて持ち運べる、彼の装備。
そこへ、暗殺者がいつも暗殺でやっているように、金目のものを全て隠し持ち、帰ろうとしたその時だった。
「……待て」
暗殺者と同じくらいの歳と思われる男の声が、部屋中に小さく響いた。
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