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灯りのついていない屋敷の一室。そこで真は、自身の背中にあった大剣を、今はその手で掴み、目の前の男に向けていた。
床には血を流しながら突っ伏している、異国人と思われる男の体。左側の壁には十字形に刻まれた文字。それだけで、真はピンときた。
「蒼紅の暗殺者……か?」
彼は疑問文を投げかけたが、目の前の仮面をかぶっている男からは返答はない。
ただ、真の方を見て、固まっている。驚いているのか悔しそうにしているのかは仮面のせいで分からないが、男の動きは完全に止まっていた。
だが、それから少しして、彼が静かに動きはじめたその瞬間、
「動くな!!」
真の一声で、その足の動きはピクッと止まる。
真はそれと同時に、仮面の男をジックリと観察し始めると、体つき的には高校生と見られるものとわかり、それとともに考えた。
こんな俺と同じ歳くらいの男子が、暗殺などするか?出来るか?まず、人を殺すことさえ難しいだろうと。
だから、この人は『蒼紅』ではなく、殺されている男の人の親族なのかもしれない。
ただ、暗殺の後に心配して部屋に来ただけなのかもしれない。
真はそう『甘い考え』で結論付けると、ゆっくりと口を開けた。
「……お前が蒼紅の暗殺者なのかは、まだ本当かどうかはわからない。だけど、お前はこの人を殺した可能性がある。それは事実だ。……だから、一緒に騎士団本部まで来てもらう。まだお前がやったと決まったわけじゃないし、勿論殺してなどはいないと思うけど、念のためと思ってーー」
だが、そこで真の言葉は途切れた。何故なら、
死んだと思っていた金髪の男が、急にうめき声を上げたからだ。
血を腹から流しながらも、男はなんとか唇を動かしている。
「he…lp……」
「!貴方、まだ生きて……っ!待ってて下さい!今救急隊員を呼びます!!」
真はすぐに、血を流している外人のところに駆けつけ、携帯電話を取り出して、素早く番号を押し、助けを呼ぼうとした。
まだ助かる。そう信じて、彼は必死に指を動かし、最後の段階で電話を繋ぐ決定キーに、指をかける。
その、刹那。甲高い銃撃音が、いともたやすく、その空間を支配した。
絶望だけで、その希望を塗り潰すように。
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