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ゴクリと。真はそれを聞いた瞬間、口に溜まっていた生唾を、無理矢理喉に押し込んだ。
そのまま自分が動けない原因となっている首もとに突きつけられている刀に、ゆっくりと目を向ける彼だったが、
「知ってるよな?魔力っつーのは使う時に精神を安定、そして集中させなければ、本来の力は発揮出来ない。さもなければ暴走、または異常変化が起こる」
彼の首にかかるヒンヤリとした刃は、空気を震撼させるように一瞬だけピクリと動き、逃げるという行為を許さない。
「まれに、自身の精神を自ら乱し、その魔力を行使する奴もいるようだが……お前にとってそれは全くの逆効果だ」
『その暗殺者は無口で、冷静。そして、自身の標的以外の相手を殺すことは絶対にせず、仕事を完遂する』
そういう噂なら聞いたことがあった。街角の噂話で何度も聞いた。
だが、そう思っていたはずの真の意識は、混乱し始めた。
ここに来る前に先輩に頼んでおいた騎士団の援軍。それが来たことを示すサイレンが聞こえてくるも、彼に反応はない。
「!……なるほど。もし自分がかなわない場合のために騎士団の援軍を呼んでおいたか。いい判断だ。……だが、その騎士共が来るのが、残念ながら遅すぎた」
暗殺者は、それに気づき、推理をしながら賞賛と感嘆の声を上げたが、それさえも真の耳には入ってこない。
饒舌。騎士団の中でも、無口で有名な暗殺者が、ここにきて何故かよく喋っていた。勿論本当の声ではないのだろうが、それでも疑問は尽きない。
静かに暗殺者の刀が彼の首もとから引かれ、鞘にカチンとしまわれる。
しかし、彼は危険性がなくなったにも関わらず、そのまま膝を地につけ、ダラリと頭を垂れるだけ。
「まぁ……次に俺と会った時は、そこらへんを注意しとけ。いつでも相手になってやるからよ」
幾ら考えても、何故かはわからなかった。だが、その声には、諦め、嘲笑、呆れなど、様々な思いが込められているように思えたのだが、
真にはその声に、
『早く強くなって欲しい』という願いがこもった、期待という感情が少し、読み取れた気がした。
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