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「ふぅ…」
勇弥が息をはくのが聞こえ、振り向けばまったく進んでない仕事に遥もため息をはく。
浩志がアパートに帰ってからもずっとこの調子で…
期限が過ぎても尚、仕事をしようとしない勇弥にさすがの遥も怒るどころか呆れる。
「後一週間後提出ですよ。忘れないで下さいね。」
「分かってる…」
と返事は返すものの勇弥の手は全く動く気配を見せない。
大絹に頼んで伸ばしてもらったが、この調子じゃあ…
「そんなに手につかなくなるぐらいなら最初から浩志君を離したりなんかしなければ良かったんですよ。」
嫌みの一つでも言わなきゃやっていけそうにない。
「別に…浩志のことなんか考えてない…」
素直じゃない勇弥の言葉にイラッとする。
どうして…ここまで…
「浩志君は明日帰られるみたいです。」
「……………」
「このまま本当の気持ちを伝えず、さよならしていいんですか?」
「本当の気持ち…など…」
言い淀む勇弥にじれったくなる。
イライラする心を抑えなるべく冷静を保ちながら話しを続ける。
「勇弥にとって浩志君はその程度の人だったんですね。簡単に手放しできるような…」
「……………」
「じゃあ、浩志君の気持ちはどうなるんですか?勇弥を大切に思ってくれてる浩志君の気持ちは?」
「…………」
「勇弥にとっても浩志君といたこの一年間はかけがえのないものだったはずです。もう一度考え直してみて下さい。…………明日、浩志君は10時の電車で帰られるそうです。」
いつまでも動こうとしない勇弥に少し刺激を与える。
本当にもう最後まで世話を焼かせるんだから…
部屋を出る際、勇弥の背中を見ながらため息を一つはく遥だった。
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