出会いはその瞬間から(最終回:後編)

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「浩志兄さん!準備できましたよー。」 満がバックを持って、嬉しそうに駆け寄ってくる。 「時間も時間だし。行こうか。」 父さんが時計を見て皆に声をかける。 「忘れものないわね?」 「ないよ。」 母さんの問いに答えて、アパートの鍵を閉める。 これで…最後。 こことも…勇弥とも…皆とも…さよなら… 最後に鍵を大家さんに返して挨拶をして、駅まで歩いて行く。 「浩志。そろそろ駅に向かって行ったよね?」 「そうだね。行こうかって言いたいとこだけど…」 由也の問いに皆に合図を送りたい碧だが未だに現れない人物に階段の上を見つめる。 「勇弥が…」 降りてくる気配がないことに碧はため息をはく。 「もう、いいさ。それが勇弥の答えなんだろ。」 雅史の言葉に碧や皆も悲しげな表情で頷くと、浩志を見送るため名残惜しくも勇弥を残して倉庫を後にする。 時計の針は、9時30分を指したところだ。 今から歩いて行っても間に合わないなと勇弥は呆れた笑みを浮かべる。 「これでいいんだ…」 浩志を家族の元に返してから決めていたことだ。浩志に会わないと… 決めていた…はずだ… 「俺は…」 『勇弥。』 そこでふと浩志の笑顔が頭をよぎった。 「なに…考えて…」 『勇弥。』 かぶりを振れば今度は悲しげな表情の浩志が頭をよぎる。 本当にこれでいいのかと…体全体が問いかけてきているようだった… 「俺は…」 俺はこのままでいいのか…? 浩志を手放して…俺は…俺の気持ちは晴れるのか…? 目をつむれば浩志といた時間が昨日のことのように思い出された。 浩志の笑顔、怒った顔、泣き顔… それのどれもが俺や皆のために見せてくれたもので… 俺が犯罪を犯した親の息子だと知っても、変わらずそばにいてくれた。 冷たく突き放しても好きだと言ってくれた。 いつでも真正面から向き合ってくれていた。 守りたいと…守ろうと決めていた大切な奴だったのに…
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