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「はぁ…」
喫煙室で大好きなバナナミルクを飲んで楓はため息をはく。
休憩室のいたるところに喫煙する場所があり、楓にとって休憩室というより喫煙室に感じる。
煙草が苦手な楓にとって苦痛の場所である。
さっきも一人煙草を吸ってた人がいて、ただでさえ煙だけ吸うのも苦手なのに死ぬかと思うくらいキツメの煙草を一本吸って出て行った。
唯一影にある喫煙室。
さっきの人が出て行ってから全然人が来ないここは今後楓の唯一の憩いの場となるであろう。
「お。こ~んなとこにいたのか。」
「あ、渡辺。」
警察学校から一番仲が良かった渡辺 勝也(わたなべ かつや)に声をかけられる。
渡辺は早くも刑事としてここで働いていた。
俺より先輩にあたるわけで。
「お前大絹さんが指導係なんだって?良かったじゃないか。」
「何が?」
「何がって、お前大絹さんにお世話になったみたいだからな。ずっと憧れてたって話してたじゃないか。職場はどうだ?やっていけそうか?お前なら明るいからな、心配ないだろ。」
親友の気遣いと励ますかのように出す明るい声に胸が重くなる。
さっきの状況でもう明るく楽しい未来なんて…
バナナミルクを一口飲むとそっぽを向く。
「知るか。俺のこと知らないような人。やっぱり見込み違いだったな。」
「なんだ。大絹さん覚えてなかったのか?」
「…………うん。」
あの時、大絹さんの言葉にショックで固まった俺に休憩時間を与えてくれたのも大絹さんだ。
困った大絹さんの表情を見て、思い上がっていたのは自分だけだったんだと思い知らされた。
「俺だけ…覚えてたのかぁ…」
確かに覚えてくれるような奴ではないことくらい分かっていた…。
けど、俺にとって大絹さんはどの警察よりも輝いていて…あの時からずっと忘れたことなんかないのに…
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