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「ははっ。なーんだ。心配してくれたのか?」
髪の毛が乱れるくらいの勢いで頭を撫でながら大絹さんは気さくな笑みを浮かべる。
「はい…。だって、大絹さんは理由もなく遅刻するなんて思えないですから…」
「はは。ありがとな。」
大丈夫だからと笑顔を見せる大絹さんに安心する。
「今日も何かあって遅れたんですよね?」
「えー…あ、いや。今日のは寝坊した…だけだ。」
「そう…なんですか…」
途端に気まずそうな表情で言葉を濁す大絹さんに深く聞くことができず曖昧に返事を返す。
……何か大絹さん隠してる…?
「もし、何かあったら俺に言って下さい!頼りにならないかもですが俺にできることなら一生懸命やりますので!」
「ありがとな…」
それ以上は大絹さんは何も言わなかった。
俺もそれ以上聞くことができず、話しはそこで終わったけど。
胸のどこかにモヤモヤした気持ちがあった…。
「最近慣れてきたんじゃないか?」
入社して数週間経った頃、片付いた書類を倉庫に持って行こうとしていた俺に後ろから声をかけてきたのは渡辺だった。
「おー。渡辺。この状況見て慣れたなんて口よく言えるな。」
ファイルから書類を一部取り出し、間違いだらけでハンコばかり押されている書類を渡辺に見せれば苦笑いされた。
「でも、一生懸命やってるじゃないか。大絹さんもお前のこと一生懸命で感心するって褒めてたぞ。」
「どうだか…」
遅刻したあの日から一緒に書類を整理していても用事があるとかでちょくちょく大絹さんは職場を離れることが多くなった。
絶対に隠し事をしている…!
でも、それを聞くこともできず胸のモヤモヤが日に日に募っていく。
俺は信用されてないのだと思うと胸が痛かった…
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