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「俺には何にも教えてくれない。今日だって、一緒に書類片していても上の空だし。」
「ふーん。あ、噂をすれば大絹さんだぜ。」
「え!?どこ!?」
あそこと渡辺が指差す方向には俺達と逆方向に歩いていく大絹さんの姿があった。
「わ、渡辺!行くぞ!」
「え!?おまっ…書類…ま、待てよ!」
ファイルを邪魔にならないところに置き、渡辺の手を引っ張って大絹さんの後をバレないようにつけていく。
「なんで俺まで…」
「しっ!」
嘆いている渡辺の声を静止すれば、公園の茂みから少し顔を覗かせる。
大絹さんの後をつけて立ち止まったのが公園だった。
しばらく様子を見ているも、誰も現れない。
「お前大絹さんの後つけてどうすんだよ?大絹さんにだって都合はあるだろ。」
「う…うん…ι確かに…」
事情を知らない渡辺の反論が痛いくらい胸に刺さる。
確かに、言い方を変えればこれは大絹さんのプライベートに入り込んでいることになる。
なかなか現れない相手に俺の思い過ごしだったかと帰ろうと渡辺に言おうとしたとき、大絹さんのところに近づいてくる人が見えた。
「あ…!」
「なんだよ?って、うわぁ!?」
渡辺の頭を抑え、一旦茂みの中へと隠れる。
頃合いを見計らい顔を覗かせればそこには大絹さんと気弱そうな眼鏡をかけた学ランの男の子がいた。
あれ…?学生…?
「もおーお前頭抑えすぎ…って、あれ?大絹さん学生と話しているじゃないか。」
「うん…」
明るい話しではないことが大絹さんの表情から読み取れた。
気弱そうな学生は大絹さんの言葉に一生懸命頷いたり首を横に振っていた。
「何か事件のことかな…?」
「かもな…」
数分くらいで話しは終わり大絹さんは帰って行った。
もしかして今の学生さんは何か困っていたのかな?
そう思うと大絹さんの手助けをしたい傍らあの学生も助けたいという気持ちが湧いてきた。
よし!俺も大絹さんに協力するぞ!
後にこのお節介がとんでもないことになるなんてこの時はまだ知るよしもなかった…。
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