第拾弍幕【迷】

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ターミナルに向かうため、急ぎ屯所の廊下を歩いていた土方は妙な男とすれ違った。 銀時と同じ天然パーマだが、真っ黒な髪に黒眼鏡。和装に真っ赤なコートを羽織り、少々がに股で歩く……。 「アンタは確か……」 「おお!真撰組の副長さんじゃなかか!こたびは取引に応じてもろうて、まっこと有難いぜよ」 そうだ。新しく出入りを求めてきた貿易商人。快援隊の……坂本辰馬とかいったか。いつもは部下の陸奥とかいう女が細かいことを取り仕切るのであまり話したことは無いが、一度だけ近藤とともに会食をしたことがある。アッハッハと豪快に笑う男で近藤も気に入ったようだった。 土方は男の笑いに紛れた鋭さが気にもなっていたが。 そのまま脇を通り過ぎようとする坂本の足運びに何かを感じた。 「テメー……只の商人にしては、かなり剣を使えるようだな」 「アッハッハ!宙はまだまだ物騒じゃき、遊び程度はするぜよ」 そのまま立ち去ろうとする坂本の手首を土方は捻り上げた。 「“遊び”にしちゃあ、随分と年季の入った剣胝だな」 坂本の掌にくっきりと浮き出た胝の位置。自分と同じく剣を扱う者の証。 「ちくと痛いぜよ」 不意に土方の右手に痛みがはしる。決して油断していたわけではないのに、容易く捻り返されてしまった手首。 「わしゃあ商人じゃき、物を売るだけじゃのうて、買うんも得手じゃよ?」 「テメー……」
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