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銀時は微妙だった。
気づけば土方の腕の中で眠っていた自分。何故か思いの外、心地好いぬくもり。再びうとうとと眠りの淵に沈みかけた時、辰馬からの指示―――土方を午前中の間、引き留めておくこと―――を思い出して。
辰馬が何をしようとしているか分からないがとりあえず土方をこの部屋から出さない方がいいだろう。
そう思い、敢えて誘うような真似までして。
歴とした男である自分が、そんなことをしても気持ち悪いだけではないかとも思ったのに、眼の前の男は凄く喜んで。
お陰で腰が痛いけど―――。
「寂しかった」と呟いた時の気まずさというか……こそばゆさというか……。どう考えても自分らしくない台詞に態度。いざという時の演技力のなさ―――男を……同性を誘う演技力など欲しくもないが―――に我ながら呆れてしまう。
……昨日まで、キレーなねーちゃんといたくせに……。男の俺といるよりも、よっぽど……気の利いたことができんだろーによ。
そういえば。
昨夜、酔っ払って帰ってきた土方の躰からは、酒の匂いこそすれど、何故か白粉の匂いも香の匂いもしなかったな……。
……あんなにぐでんぐでんになって。どうやって帰ってきたんだか。真撰組副長ともあろう者が、よくもまあ、狙われなかったモンだ。
―――「 」―――
脳裏に甦った声に、慌てて頸を振る。
無し!アレはカウントしない!っていうか、とにかく、俺は何も聞いてないから!
想い出してはいけない。今、抱えている問題は何も解決していないのだ。とにかく、皆のことを護るには、辰馬の策に縋るしかない。
だから、多少不自然だろうがなんだろうが、とにかく土方を引き留めなければいけない。どうやらそれは何とか成功したようで、仕事一筋のこの男は、今もこの部屋にいる。確かに今日は非番らしいが……。
……何だかとても不思議な光景だった。
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