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きっと見上げる眼鏡の奥の瞳は、怖気付くこともなく真っ直ぐに沖田を見据える。
「土方さんは……真撰組副長は京への出張を繰り上げて、昨日戻られたらしいですね」
新八の口から“土方”という名前が出ると、沖田の表情が僅かに変わった。
それが宿敵に対するもの故か。それとも……。いや、今は判断できない。
「副長ともあろう人が予定を一週間も繰り上げて……一体江戸に何をしに戻ってきたのですか?」
「さァな。土方さんのやることにいちいちケチつけてりゃあ、それこそ朝飯から夜食までケチのつけ通しだろ。……仕事が早く片付いたってことじゃねーのかィ」
「それにしたって……!」
更に新八は言い募ろうとする。確たる証拠があるわけじゃない。だけど。
ここ最近の銀さんの異変には必ず土方さんが関わっている!
甘いものを食べなくなった銀さん。
夜、何処かへ出かけて行き……ふらふらになって帰ってくる銀さん。
どんどん痩せていってしまった銀さん。
辛そうなのに……それでも自分達の前では微笑おうとする銀さん。
いつからかなんてもう分からない。
何が起きているのかも分からない。
けれど。
あの日。急に土方さんが万事屋にやって来た日。
……あの日の銀さんは確かに何処かおかしかった。
そして電話の音を嫌がるクセに、鳴りはじめれば真っ先に取りに行った。
何がどうおかしいのか。言葉で説明なんか出来ないけれど。これだけは言える。
「……土方さんの所為なんです」
呟き、唇を噛み締める新八。逆に燃えるような瞳で睨みつけてくる神楽。彼らの銀時を想う気持ちは痛いほどに伝わってくる。
伝わってはくるのだが……。
「悪ィけどよ……」
言外に漂う拒絶の気配。
「じゃあ……せめて土方さんに……!」
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