第漆幕【憧】

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土方に会ってどうするつもりか。考えなんてこれっぽっちもないけれども。 直接聞きたいのだ。 “銀さんを何処へ隠したのか” 鼻で笑われてもいい。 言いがかりはよせと怒鳴られても構わない。 ただ。本人に。本人の眼を見て問い質したい。 「副長は……重要参考人の取り調べ中なんでィ」 沖田さん。 とても簡単な質問じゃないですか。 それなのに。 貴方程の人が。 何故。 僕らから眼を反らすのですか―――? 「沖田さん……」 「悪いな志村。……俺も仕事がある」 再び固く閉ざされた門。 どれほど呼んでも叫んでも。 その扉が開くことは無かった―――。 ─・─・─・─・─・─・─ 屯所の片隅。雑草が繁り、滅多に人が訪れない……ただよく見ると一ヶ所だけ不自然に草を敷き詰めた箇所がある。……真撰組でも滅多に使われることのない地下独房への入口。其処まで来た沖田は我知らず詰めていた息を吐き出す。 「ガキ共が来たようだな」 隣に立つ背の高い男。煙草の煙が妙に勘に触る。 「アンタのお陰で門がぶっ壊されるとこでしたよ」 皮肉気に返しても浮かぶのは薄笑い。 「俺は別に知られても構わねーんだが……奴のたっての願いだ。叶えてやろうじゃねーか」 「そりゃあ、お優しいことで」 苛々と足元の草を踏みにじる。 「……そんで」 ちったあ吐いたんですかィ?その“重要参考人”とやらは。副長自らが取り調べなさってるんだ。何日も手をかけてちゃあ“鬼の副長”の名が泣きますぜィ。 解放してやりなせィ―――。 睨みつけてくる沖田に如何にも可笑しそうに漆黒の男は嘲笑う。 「吐かせるだけが俺達の仕事じゃないだろう?」 それだけを残し。男は再び地下牢へと向かう。 「……………」 男の消え行く先。暗く冷えきった地下道。 「死ね土方」 余りにも日常的に口に出されるその台詞には。 非日常の……本気の殺意が込められていた───。
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