543人が本棚に入れています
本棚に追加
/185ページ
土方に会ってどうするつもりか。考えなんてこれっぽっちもないけれども。
直接聞きたいのだ。
“銀さんを何処へ隠したのか”
鼻で笑われてもいい。
言いがかりはよせと怒鳴られても構わない。
ただ。本人に。本人の眼を見て問い質したい。
「副長は……重要参考人の取り調べ中なんでィ」
沖田さん。
とても簡単な質問じゃないですか。
それなのに。
貴方程の人が。
何故。
僕らから眼を反らすのですか―――?
「沖田さん……」
「悪いな志村。……俺も仕事がある」
再び固く閉ざされた門。
どれほど呼んでも叫んでも。
その扉が開くことは無かった―――。
─・─・─・─・─・─・─
屯所の片隅。雑草が繁り、滅多に人が訪れない……ただよく見ると一ヶ所だけ不自然に草を敷き詰めた箇所がある。……真撰組でも滅多に使われることのない地下独房への入口。其処まで来た沖田は我知らず詰めていた息を吐き出す。
「ガキ共が来たようだな」
隣に立つ背の高い男。煙草の煙が妙に勘に触る。
「アンタのお陰で門がぶっ壊されるとこでしたよ」
皮肉気に返しても浮かぶのは薄笑い。
「俺は別に知られても構わねーんだが……奴のたっての願いだ。叶えてやろうじゃねーか」
「そりゃあ、お優しいことで」
苛々と足元の草を踏みにじる。
「……そんで」
ちったあ吐いたんですかィ?その“重要参考人”とやらは。副長自らが取り調べなさってるんだ。何日も手をかけてちゃあ“鬼の副長”の名が泣きますぜィ。
解放してやりなせィ―――。
睨みつけてくる沖田に如何にも可笑しそうに漆黒の男は嘲笑う。
「吐かせるだけが俺達の仕事じゃないだろう?」
それだけを残し。男は再び地下牢へと向かう。
「……………」
男の消え行く先。暗く冷えきった地下道。
「死ね土方」
余りにも日常的に口に出されるその台詞には。
非日常の……本気の殺意が込められていた───。
最初のコメントを投稿しよう!