543人が本棚に入れています
本棚に追加
/185ページ
「オイ……」
こうなってしまうと噎せるような呼吸が治まるまで、ただ抱きしめるしか土方には術は無い。漸く息を整えた銀時はそのまま静かに瞳を閉じる。結局。その日、銀時に食べさせることが出来たのは一粒の苺だけ。
“解放してやりなせェ……”
耳に響く沖田の声を、かぶりを振って振り払う。
解放など、できるわけもない……。
だが。
人間が何も口にせずに生きていけるのは、どれくらいだったろうか……?
再び纏わりつき始めた不吉な予感。
まだ……大丈夫だ。
いざとなったら注射でもなんでも手段はある。
だから……大丈夫。
微かに震える土方の腕の中。瞼に滲んだ滴は随分と透明で……儚く消えゆく露を想わせた。
日に日に痩せ細っていく想い人を腕に抱え……土方はそれでもその手を離すことは出来ないでいた。
─・─・─・─・─・─・─
「副長」
屯所の自室で書類整理をしていた土方に声がかかる。
「何だ」
顔も上げずに答えれば、視界の隅で闇が動く。
「……今日も万事屋の二人が来ました」
「そうか」
素っ気なく答える土方に真撰組監察は僅かに唇を咬む。
「いつまで旦那を“取り調べる”おつもりですか?旦那が有罪にしても無罪にしても、このままじゃあの二人も可哀想です。沖田隊長だって―――!」
堰を切ったように続ける山崎の言葉が途切れた。白刃が煌めき、一瞬にして頸に走る熱い感覚―――。
薄皮一枚程を掠める土方の刃。
「テメーの仕事は何だ?山崎」
眼の前で鬼が笑う。
「……諜報、です」
震える声。唾を飲み込む音が耳に響く。
「分かってんじゃねえか」
口を出すなと漆黒の瞳が睨む。
「でも……!」
このままじゃ旦那が―――!
必死に後を続けようとする山崎を後目に土方は部屋を出る。
「副長、何処へ―――!」
「……“取り調べ”の時間だ」
追い縋る声を無視し、鬼が向かう先は……銀色の元。
最初のコメントを投稿しよう!