第漆幕【憧】

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「オイ……」 こうなってしまうと噎せるような呼吸が治まるまで、ただ抱きしめるしか土方には術は無い。漸く息を整えた銀時はそのまま静かに瞳を閉じる。結局。その日、銀時に食べさせることが出来たのは一粒の苺だけ。 “解放してやりなせェ……” 耳に響く沖田の声を、かぶりを振って振り払う。 解放など、できるわけもない……。 だが。 人間が何も口にせずに生きていけるのは、どれくらいだったろうか……? 再び纏わりつき始めた不吉な予感。 まだ……大丈夫だ。 いざとなったら注射でもなんでも手段はある。 だから……大丈夫。 微かに震える土方の腕の中。瞼に滲んだ滴は随分と透明で……儚く消えゆく露を想わせた。 日に日に痩せ細っていく想い人を腕に抱え……土方はそれでもその手を離すことは出来ないでいた。 ─・─・─・─・─・─・─ 「副長」 屯所の自室で書類整理をしていた土方に声がかかる。 「何だ」 顔も上げずに答えれば、視界の隅で闇が動く。 「……今日も万事屋の二人が来ました」 「そうか」 素っ気なく答える土方に真撰組監察は僅かに唇を咬む。 「いつまで旦那を“取り調べる”おつもりですか?旦那が有罪にしても無罪にしても、このままじゃあの二人も可哀想です。沖田隊長だって―――!」 堰を切ったように続ける山崎の言葉が途切れた。白刃が煌めき、一瞬にして頸に走る熱い感覚―――。 薄皮一枚程を掠める土方の刃。 「テメーの仕事は何だ?山崎」 眼の前で鬼が笑う。 「……諜報、です」 震える声。唾を飲み込む音が耳に響く。 「分かってんじゃねえか」 口を出すなと漆黒の瞳が睨む。 「でも……!」 このままじゃ旦那が―――! 必死に後を続けようとする山崎を後目に土方は部屋を出る。 「副長、何処へ―――!」 「……“取り調べ”の時間だ」 追い縋る声を無視し、鬼が向かう先は……銀色の元。
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