543人が本棚に入れています
本棚に追加
/185ページ
銀時を出せだと?何を馬鹿な―――。
苛々と地下牢へ向かう土方は不意に眉を顰める。
入口が僅かに開いている―――?
雑草に覆われた一角。見慣れたが故に感じる違和感。
……まさか!
慌てて中に入り、湿った道を走る。
そんな筈は……いや……!
脳裏に過ぎる不吉な考え。それは扉の南京錠がこじ開けられていることで確信に変わる。
「銀時!」
其処には―――。
珍しく途方に暮れた表情の沖田。その手には銀時に仕込んでいた筈の道具が。
「土方さん……アンタ、何てことをしてくれてんですか」
呆れたように、だが怒りを込めた琥珀色の瞳が土方を貫く。
「るせえ!テメ、何勝手なことを!」
俺のモンに触るんじゃねえ―――!
「勝手はアンタでしょうが……旦那、行きやしょう。こんな馬鹿に付き合う必要なんてありやせん」
「総悟!?何しやがる!」
鎖の根本に突き立てられる剣。
パキリ……。
存外に軽い音が銀時の戒めを解いてしまう。
「旦那、さあこんなとこ、早く出やしょう」
「こっから……でる?」
かさついた唇が辿る、絶望的な響き。
「そうでさァ……早く……」
言いかけた沖田の言葉が止まる。
「 い…… や だ 」
「旦那?」
「おれは……ここにいる」
「旦那、何を……」
訝しげに問い返す沖田の表情が変わる。
「ひじかたのところにいる……ひじかたからはなれない……だからひじかたはみんなをころさない、ころさない、ころさない、ころさない、ころさない―――はなれない、やくそく、ころさない、やくそく、やくそく、やくそくした―――からひじかたはころさない―――おれがおれがおれが―――ひじかたは、ひじかたはひじかたは―――」
無表情に繰り返す銀時の瞳には、全く光が無く……それなのに不思議と澄んだ声が牢獄に唄うように響く。遠くを夢見るような恍惚の表情。
―――これは、本当に、あの旦那なのか……?
呆然とする沖田を、不意の絶叫が貫く。
「いや…だ!殺すな……!皆を殺さないで……土方ァァッッ!」
急激に蒼褪めた白い肌。怯えきった瞳には、やはり光は見られない。
「俺はここにいるから!もう逃げねーから!だから……!」
皆を助けて―――!
最初のコメントを投稿しよう!