第漆幕【憧】

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銀時を出せだと?何を馬鹿な―――。 苛々と地下牢へ向かう土方は不意に眉を顰める。 入口が僅かに開いている―――? 雑草に覆われた一角。見慣れたが故に感じる違和感。 ……まさか! 慌てて中に入り、湿った道を走る。 そんな筈は……いや……! 脳裏に過ぎる不吉な考え。それは扉の南京錠がこじ開けられていることで確信に変わる。 「銀時!」 其処には―――。 珍しく途方に暮れた表情の沖田。その手には銀時に仕込んでいた筈の道具が。 「土方さん……アンタ、何てことをしてくれてんですか」 呆れたように、だが怒りを込めた琥珀色の瞳が土方を貫く。 「るせえ!テメ、何勝手なことを!」 俺のモンに触るんじゃねえ―――! 「勝手はアンタでしょうが……旦那、行きやしょう。こんな馬鹿に付き合う必要なんてありやせん」 「総悟!?何しやがる!」 鎖の根本に突き立てられる剣。 パキリ……。 存外に軽い音が銀時の戒めを解いてしまう。 「旦那、さあこんなとこ、早く出やしょう」 「こっから……でる?」 かさついた唇が辿る、絶望的な響き。 「そうでさァ……早く……」 言いかけた沖田の言葉が止まる。 「 い…… や だ 」 「旦那?」 「おれは……ここにいる」 「旦那、何を……」 訝しげに問い返す沖田の表情が変わる。 「ひじかたのところにいる……ひじかたからはなれない……だからひじかたはみんなをころさない、ころさない、ころさない、ころさない、ころさない―――はなれない、やくそく、ころさない、やくそく、やくそく、やくそくした―――からひじかたはころさない―――おれがおれがおれが―――ひじかたは、ひじかたはひじかたは―――」 無表情に繰り返す銀時の瞳には、全く光が無く……それなのに不思議と澄んだ声が牢獄に唄うように響く。遠くを夢見るような恍惚の表情。 ―――これは、本当に、あの旦那なのか……? 呆然とする沖田を、不意の絶叫が貫く。 「いや…だ!殺すな……!皆を殺さないで……土方ァァッッ!」 急激に蒼褪めた白い肌。怯えきった瞳には、やはり光は見られない。 「俺はここにいるから!もう逃げねーから!だから……!」 皆を助けて―――!
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