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「錯乱してまさァ……旦那がこんなになるなんて、アンタ一体……!」
怯え、暴れる躯に巻き付く鎖。必死に呼びかける沖田。それでも銀時の叫びは静まらない。
「頼むから……土方ッッ!」
縋りつく銀時を抱きしめ、土方は想う。
銀時は“ここにいる”と言った。
自分から“はなれない”と言った。
もう“にげない”と言った。
なのに何故……。
気持ちが晴れない?
一度は去った暗雲が再び心を覆う。
必死に自分に縋りつく銀時。ただひたすらに土方の名だけを呼び続ける。それしか言葉を知らない赤子のように。最早“コレ”は自分のモノだ。
それなのに―――!
嗚呼、沖田の声がする。
「土方さん、アンタそれで満足なんですかィ?」
そんな脱け殻のような旦那を手に入れて……本当に、満足なんですかィ……?
そうだ―――。
これは自分が望んだこと。
脱け殻だろうが何だろうが。
ここにはいるのは確かに銀時で……。
どんな手を使っても欲しかった相手。
どうしても自分を見ない相手に。
その瞳に自分を、自分だけを映したくて。
その声で自分だけを呼んで欲しくて。
その笑みを自分だけに向けて欲しくて。
不意に脳裏に浮かぶ―――子ども達と笑い合う姿。
あれは、一体いつのことだった?
いつから……。
銀時は笑っていない?
「あ……」
元より嫌われていた。
自分に笑ってくれたことなど無い筈で。
それなのに。
何故。
こんなにもコイツの笑顔が恋しい?
銀時……。
「…笑えよ……」
掠れる声は情けない程に震えていて。
それなのに眼の前の銀色はただ怯えた色を瞳に浮かべて土方の名を紡ぐ……そう、ただ、それだけ。
嘲笑でも何でも構わない。
笑ってくれ。
テメーの笑顔が見たいんだ。
何でも言うことをきくと言っただろう?
だから。
笑ってくれ!
笑ってくれ!!
笑ってくれ―――!!!
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