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気づけば叫びながら肩を揺さぶっていた。それでも笑わない銀時。
「やめなせェ!!」
「笑えって言ってんだよ、銀時!」
「この状況で笑えるわけなんてありやせんでしょうが!旦那から笑顔を奪ったのは……いや、旦那だけじゃない。メガネや……チャイナからも笑顔を奪って!……三人を壊した張本人はアンタだろ!!」
俺が……壊した?
「違う……俺は……」
「何が違うんでさァ!!返せよ!アンタが奪った!アンタが壊した!俺にアイツの笑顔を返せッッ!!」
廻る……道の真ん中でじゃれ合う三人組。
イイ歳をして買った饅頭を食べ歩く銀髪に。
晴れているのに大きな傘をさす少女がその袖をつかんで何かを話しかける。
呆れたように買い物袋を覗き込む眼鏡の少年。
「返せよ!アイツらの日常を!!」
常にもなく琥珀色の髪を振り乱し激昂する年下の青年。
俺は……ただ……。
俺にも笑いかけて欲しかっただけなのに―――。
腕の中。怯える銀時。笑わない銀時。壊れた機械のようにひたすらに繰り返す言葉。土方が教え込んだ言葉―――この場にそぐわない淫語―――そうすれば、土方を喜ばせられると、皆を護れると、刷り込んだ―――誰も笑えない、醜悪な喜劇。
それでも―――。
「駄目だ……」
離せない。
この腕を解くことは出来ない。
「無理なんだよ……」
この腕を解いたら。きっと二度と触れることは出来ない。こんな目に合って、今度こそ完全に行方を眩ますかもしれない。そうしたら二度と姿を見ることも出来ないだろう。
そんなことを考え、ぞっとする想いに駆られる。
銀時を失う―――?
「無理だ!どんなに罵られようと、この手は離せねえ!」
銀時をかき抱き、必死の想いで叫ぶ。
「アンタ、この期に及んで未だ―――」
「無理だって言ってんだろ!?どうしても……出来ねえ……!出来ねえんだよ……総悟!!」
形振り構わず叫ぶ漆黒の鬼。見たことも無いほど狼狽えるその姿に沖田は内心怯む。
だが、ここで退くわけにはいかない。
「旦那が死んじまってもいいんですかィ?このままじゃあ、旦那はヤバい。心は言うまでもなく、躯だっておかしくなってまさァ。むしろ、よくここまでもったもんだと思いますよ。……アンタは旦那の亡骸に笑えって言い続けるつもりですかィ?」
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