かえりみち

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 麗らかな春の陽に照らされた頬は、いつもより紅潮していた。  あの人の背中を追いかけて、少し歩調を速める。  きっと、彼は知らない。私の気持ちも、いえ、私さえも。  その背中を見る事しか許されていないかの様に、萎縮した手足は決して彼に触れようとはしない。  彼に手を引かれて歩くのを夢見つつ、私は後ろを歩く。  冷たい空気に熱を取られた掌を、擦りあわせて息を吹きかけ温めた。 「私はここよ」  精一杯の心の声は、その少しの距離に負けてしまう。  今日もひたすら歩き、そのまま別れる。もう嫌、そんなの……耐えられない。  大きく息を吸い込み、心を決める。 「先輩!」  祝福の光は今、ふたりの恋を捉えた。
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