迎えに行ってやってくれ

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祖母の愛した本の山を懐かしみ、男は淡々と陳列する本棚の間を更に突き当たりまで足を進める。 長年放置されただけはある空中を舞う黴と埃のせいで数回くしゃみをしながらも、懐かしいその空気に表情を和らげ、男は本棚の奥で堂々と立つ古時計と対峙した。 「久しぶりだね、君とも」 まるで古い友人とでもするようなおかしな会話。 もちろん、動くことをやめたその時計は返事をするでも、時を刻んむこともなく、黙って男を見下ろしている。 永い時を思わせる装飾にそっと触れ、何年か前は規則的に時を刻み続けていただろう振り子の鈍く光る金色に息を吹きかければ、振り子は埃を舞い上げ、再びもとの姿を取り戻した。 「ただいま。――迎えに来たよ」 * 寝るためだけに借りていた簡素な集合住居。 その一番端の小部屋の主、ルウの元に一通の手紙が届いたのは極最近の話だった。 そこに記される、長いこと訪れることのなかった屋敷の簡単な見取り図、そして紙面の隅を破いて書いたような乱雑なメモ書きが。 『迎えにいってやってくれ――Jack』 それ以外は何も書いてはいなかったのだ。 力を振り絞った最後の文字は、インクの加減を間違えたのか、真っ黒に塗りつぶされていて。 それからルウは、まるでインクに込められた強い力に引き寄せられるように胸が締め付けられ、久々の遠出に列車を何度も乗り換え、やっとたどり着いた故郷の町。 宿主のいない古びた洋館。 もとは見事な薔薇のアーチも今ではすっかり蔓薔薇の餌食となってしまっており、あんなに立派に思えていた屋敷は、今では地元生粋の幽霊屋敷と評判になっていた。
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