迎えに行ってやってくれ

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ルウにとって、それは実に10年ぶりの帰宅となった。 「留守番、ご苦労様」 ルウは時計の真下にある古ぼけた小さな箱に視線を移した。 鍵は無い。 メルヘンチックな木製の小窓を開けて中を覗き込むと、そこにはじっと時が経つのを待っていた分厚い本が一冊鎮座している。 数年前とも変わらぬそれに、思わずルウの頬が懐かしさに緩んだ。 「あの頃より、ずっとぼろぼろだ」 ルウは小さく笑みをこぼすと、手に取ったセピア色に染まった表紙を優しく撫でるように開いた。 永い年月で文字は掠れ、挿絵はほとんど白紙に同化している様がありありと目の前に晒し出される。 ルウは深く息を吐き出し、その紙面により一層優しくそっと指を這わせた。 「…………」 するとどうだろう。 指先が触れた箇所が、まるでインクで書き直したように文字列が徐々に戻っていく。 そして文字がページを黒く染めるのを見計らって、ルウが指を離せば紙面の復元は止まり、そのページは劣化する前とほぼ変わらない状態へと早変わりした。 表情豊かな挿絵が、ルウを紙ごしに笑いかける。 その調子で次のページ、そのまた次のページも同じ要領でどんどん“復元”していった。
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