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人々が行き交う賑やかな商人街をゆっくりとした歩調で歩きながら、ある店を目指す。
色々と珍しい物ばかりが集まっているが一応は傘屋で、これまた不思議な形の傘ばかりを作っているのだ。
「詩郎君、俺だ」
「あい、いらっしゃい。巡査殿」
ガラリと扉を開ければ細めの男が返事をした。
─吉原詩郎。この傘屋の主人であり、少し…いや、だいぶだらしのない男である。
着崩れをしているが服を着ているだけまだマシと思うことにして、詩郎の向かいへと腰をかける。
「椿屋の菓子を持ってきたんだが、一緒にどうだ?」
「わぁ、嬉しいです!」
風呂敷に包まれた箱を見せれば詩郎はパッと嬉しそうな表情を浮かべて抱き付いてきた。
それもそのはず。椿屋の菓子は詩郎の好物なのだ。
早く欲しいと言いたげな瞳で菓子を見つめる詩郎に小さく笑みを零し、風呂敷の結びを解いていく。
「巡査殿、早く!」
「分かったから、少しくらい待て」
「待てません!」
身を乗り出してくる詩郎から菓子を一時的に遠ざけるも、追い掛けるように体を伸ばしてきたのでバランスを崩しそうになった。
…と同時に、太ももに何かが触る。
「…詩郎君。太ももに何か当たるんだが、まさか」
「あい、モチロン下着は着けてないです」
「だから威張って言う事じゃねーから!!フンドシを着けろと毎回言ってるだろうがぁぁぁ!!」
「うぐっ」
キランと音がしそうな位の決め顔で言い放つ詩郎の頭にチョップをして、褌の入っているタンスから一枚取り出せば有無も言わせぬ速さで褌を着けてやった。
「…これでよし!」
「……気が済んだなら、脱いでもいいですか?」
「何でだよ!!今着けたばかりだろうが!!ほ…ほら、菓子を食べよう、な?」
「!そうでした」
もうすでに脱ごうとしていた手を掴んで何か気を紛らわせようと提案してみれば、詩郎はピタリと手を止めて再び菓子に夢中になる。
「巡査殿、食べさせて下さい」
「…は?……すまない、よく聞こえなかったからもう一度…」
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