浴衣

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それは、帯。だった。 そう。 着物だとか浴衣とかに巻くオビ。 そんなものに巻くのだからヒナはもちろん、浴衣を着込んでいる。 「どしたの、それ」 鏡越しに視線が合う。 くるりと、顔だけ向けられれば、昔の名画を連想させられる。 「さっき、シゲルさんがきて」 シゲルってのはオレの友達で、オカマさん。 最近、なんでだか、ヒナとシゲルの仲が良い。 なんでも、シゲルが主催する恋するヲトメの会っつーのに、ヒナが参加したらしいけど…。 なんだろう。あやしい宗教じゃなきゃいいけど。 ヒナに言わせると、心が乙女な方々が数多く参加されてるそうで。 ヒナはその人達の相談やらなんやらにのってるらしい。 「シゲルさんから、もらっちゃった」 「シゲルにしちゃ、中々粋なプレゼントだな」 「お店の衣装にしようとしたら、サイズが合わなかったらしいよ」 ふふって短く笑って、鏡の前でくるりと一回転した。 「あ」 結びきれてない帯が、一回転したせいで、足首に巻き付く。 よろけて…あれよあれよ、と言うまにヒナ巻きの完成。 悲惨な状況。 ヒナは脱出しようと試みてはいるが、いつ倒れてもおかしくない格好だ。 助けを求めるように、差し出される手。 その手を、ぐいと引き寄せる。 バランスを崩して、ヒナが腕の中に突っ込んでくるのを、やんわりと受け止めた。 「危なかったね」 「ユウジさんがひっぱるからでしょ」 ぷりぷり怒ったように膨らむ頬。 かすめるように、唇で撫でた。 .
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