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よく見れば少したれ目がちだが整った顔をしている。その眼光は注意深く俺のことを窺っていた。
俺のことも殺ろうとしている。
社を捨てた俺はもはや大神狐ではなくただの妖狐。
陰陽師なら殺ろうとして当然だろう。
だが、おれは確かに感じていた。
姿は違えど今にも俺に攻撃しようと構えている陰陽師から、探し求めた愛おしい人の気配を…
「甄…」
俺は思わずつぶやいていた。
「シン?誰と勘違いしている妖狐」
しっかりと俺の声を聞いた陰陽師が訝しい顔をして言葉を返してきた。
言葉から察するにやはり俺のことは覚えていないらしい。
わかってはいたが実際に聞いてしまうとやはりショックだ。
「勘違いね…やはり俺のことを忘れてしまったのだな、」
「何を言っている?俺は甄なんて名前じゃない」
俺の問いかけに陰陽師は気を悪くしたのか完全に攻撃態勢をとり、怒気の含んだ言葉とともに呪符(陰陽師が用いる護符)を投げつけてきた。
するりとその呪符をかわし、陰陽師の背後に回り込む。
そのまま腕をとり、冷たい土の上に押し倒した。
「主が覚えていなくとも、主は間違いなく甄だ。俺のもっとも大事な人の生まれ変わりだ。」
陰陽師に跨り、上から見下ろしながら言い聞かす。
「甄、主に伝えられなかった事がある。俺も主を誰よりも愛していた」
抵抗してこない陰陽師に昔、甄に伝えられなかったことを伝えた。
押し倒されて、組み敷かれている状態だというのに陰陽師は俺の言葉を聞いて口角を上げた。
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