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「…もう、行くのかい?」
「はい」
栗色の髪を風に揺らし、紅の羽織りを翻し、先を歩く幸村は振り返る。
その口元に、静かな微笑みを湛えて。
「いろいろと、お世話になりました」
「いや、当然の事をしたまでだ。しかし、貴殿のような優れた人材を手放すのは…少々残念だね」
「ふふ…」
幸村は、直江と向き合う。
六文銭の刻まれた、紅の羽織りを靡かせ、刀を握りしめたまま。
整った顔に、静かな微笑みを張り付けたまま。
「有り難いですが、僕らは戦場にしか居場所がないんです」
その後ろに、不敵に笑う自らの勇士を従えて。
そして、真田幸村は越後の地を発ったのだった。
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