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夏休み…それは学校生活の中でも1、2を争うほどの一大イベントである。
そんなイベントの始まりを告げる終業式を終え、子どもたちはそれぞれ笑顔で通学路を歩いて行く。
その中でも一際目立つ子どもの姿が2つ、集団から外れてこの町で唯一の神社へと続く石段を駆けていた。
一人は天使のような羽が付いた風変わりな服装をした活発そうな少女。
もう一人は短パンに長袖のTシャツといった服装で、その顔からは少し気の弱そうな印象を受ける。
先頭を走っていた少女はふと後ろを振り返ると、相手が必死に自分から離されまいと石段を駆ける姿が目に映った。
少女は石段の中腹辺りにある踊り場に到着すると駆けるのを止め、相手が来るのを待つことにした。
数十秒後、少し息を乱しながら到着した相手に少女は少し不満げな表情で両手を腰にやりながら顔を覗き込んだ。
「もぅ~ひーちゃん、遅いよ~……それじゃあ、お店が閉まっちゃうかもしれないよ?」
そう言って少女は少し頬を膨らませながら相手に文句を言った。しかし、太陽の位置から察するに今はまだ正午を少し過ぎた頃であり、彼女の言うお店が閉まるにはまだ早いのではないかとひーちゃん…“曽根川 ひかる”は息の乱れを整えながら思った。
「あ、あいちゃん…そんなに急がなくても、お店は逃げないよ……それに、お店が閉まるのは大体、夕方でしょう?」
まだ少し息を切らせながら膝に手をやった状態から、顔だけを相手に向けるひかるに対して少女“天見愛流(あまみ あいる)”はその場で硬直した。
相手が突然、硬直したことに首をかしげるひかるだったが、愛流の次の行動にその疑問は吹き飛んだ。
「もぅ……かわいいな~!ひーちゃんは!!!」
そう叫びながらいきなり抱擁する愛流に少し頬を染めながらひかるは戸惑った。
愛流は可愛いものや仕草を見ると衝動が抑えられなくなり、抱きついたり、頭などを撫でたりする習性があるのだ。
彼女曰く、『可愛いは正義』であり、ひかるはその可愛い対象として認識されているらしいのだが、毎回その衝動によって抱きつかれたりするのは少し勘弁願いたいと思うのが正直なところだった。
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