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気だるい梅雨が明け、本格的な暑さを感じるようになった夏の夜…河川敷に一人、空を見上げる男の姿があった。
男は甚平に草履といった如何にも夏らしい服装、それに加えて青年とも中年とも言えそうな顔つきからは冴えない印象を受ける。
「…そろそろ限界、でしょうか」
誰に言うでもなく、ぽつりと呟いた言葉に反応する者はいない。男は空から自分の足元にある地蔵へ視線を移すと指先で眼鏡を押し上げ、一つ大きなため息を吐きながらゆっくりとした足取りで歩き始めた。
男が立ち去った後、その場には月光に照らされた地蔵があるだけなのだが、どこからともなく小さな笑い声が響いた。
それはまるで、これから始まるであろう事件の前触れであるかのように……
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