序章 思い出

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 温かい風が吹いた。  七分咲きの桜の木から花びらがぱらぱらと舞う。  見上げると、目に入るのは日の光。目を細めるとその白い花弁が姿を現した。  遠くに名前も知らない小さな鳥が羽ばたいている。 「もうそんな季節か……」  うっすらと立ちこめる花の香り。  白い衣に身を包み、ベンチに座ったまま空を見上げていた男性は、視線を地平線の向こうに戻した。  一人の女性が駆けているのが見える。 「そんな……季節なんだなぁ……」    なんだか心の琴線に触れた気がして、自然と笑みが零れる。  澄み渡る青空は、どこまでも広い。
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