幻の存在

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「朝っぱらから浮かない顔してますね、シド・ジャット君」 「おあぁ!」 白い雲が浮かぶ青空は、至って平凡だ。風が心地いい。日差しで少し暑さを感じる肌を優しく、それでいて適度に冷めさせてくれる。そんな心地の中で、ポッカリと浮かんだ白い雲を眺めるのが、オレの日課だ。 レインヒルズの空は綺麗だ。どこの国からも離れた場所に位置した絶海の孤島は、余所者からの干渉が無く、伸びやかな日々を齎してくれる。これが、国とか言う大きな括りに入れられていたら、目まぐるしく忙しない世界で生きることになっていた。そんな世界にいたらと思うと、とても耐えられない自信がある。自然に囲まれ、海を見る。自分の嗜好によく合ったこの環境は、代え難いものだ。 今日もいつもの日課を嗜んでいたが、オレの親友にたった今、その邪魔をされた。しかも、無様な反応まで見せてしまった。二重の嫌がらせを受け、何か仕返しをしてやろうかとも思ったが、それも億劫なので、ただ普通に返事をしてやる。
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