幻の存在

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「今、すっごい声を出したな」 「お前な、普通に声を掛けろ」 苦笑いで反応する幼馴染のセンリを睨んだ。そのサラサラとした髪に、丸い目をした愛嬌ある見た目に反して、悪質な事をしてくれる。 浮かない顔と言われたものの、空を見ていただけだ。だが、その顔が浮かなく見えるらしく、それに心配したのかもしれない。この顔がいつもの事というのを、何度説明したらわかるんだ。 よく言えば仲間想い、悪く言えばお節介な性格をしている。どちらを取るかはその人次第だ。それが、センリ・サクルという人間だ。 「いつにも増してボーッとしてるから心配したんだって。何かあったか?」 「また心配かよ。オレは何回心配されればいいんだ」 「今回ばかりは違うかもしれないだろ?自分の納得するように生きてるかもしれないけど、今回は、って思っただけ」 「別に全てに納得なんかしてない。自分に納得しながら生きる奴を見てみたいものだ」 センリの言葉を脳内に駆け巡らせる。納得って何だろうか。不安に思わない事だろうか。全てを理解する事だろうか。結構考えてはいるが、どうもわからない。それに、納得していたところで、悩んだり迷ったり、浮かない顔だってする。関連性なんてない。 こういった事をよく口に出すが、周囲からは話が深くて付いていけない、考えすぎだと言われる。自覚はしている。無駄に考えてしまうのがオレの癖だ。だが、深い人間であるとは思っていない。深ければ、もっとまともな人格にも人相にもなっていた。言葉遣いも、乱暴にはならなかっただろう。
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