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障子を開けようと取っ手に手を掛け動かそうとするが、障子の下のほうで埃かゴミが詰まっているようだった。力を入れてようやくギシギシと音をたてて動き出した。目の前の光景を見て、目をつむりたくなる。
純和風な造りの通り、床は畳。部屋の真ん中には机。押入れは、開いたままで水を吸った布団が舌を出すように押入れから這い出ていた。布団は緑色に斑点が付いている。カビが発生しているのは明らかだ。
その光景を見たからか。僕はこの空間が生理的嫌悪を催す空間だと再認識したのだった。制服のポケットからハンカチを取り出し、額から流れる嫌な汗を拭く。不気味だった。畳にも目をやれば、色があせ、ほつれてる。
六畳のうち、2つがひっくり返され、裏にはムカデやダンゴムシなどといった昆虫がざわめいていた。雑然とした虫達は、侵入してきた僕には目もくれず、せっせせっせと湿った畳の上を絶え間なく移動している。
靴であがったのは正解だったかな……。足場は、自分が学校に通学するアスファルトより勿論汚く。整備されていない土手道と比べても汚いものだった。畳の上を移動すると、中がボロボロになっているのか、僕の体重に押し負けぐにゃりと沈む。僕は、そのぐにゃりとした感覚があの昆虫達を踏んだようで、うっと声をあげるのだった。
衝動に駆られて、ここまで来たのはよかったのだが、もう十分堪能出来たと思う。こんな訳の分からない廃墟は、見るだけで満足だった。何故、僕は足を踏み入れてしまったのだろう。噂に流されて、その場のノリで来てしまったのか……。
廃屋に入ってから1分弱ぐらいの時間で僕は、うんざりとしていた。こんな趣味は、僕にはない。オカルトマニアがやればいいことだと思う。こういう廃墟は、テーマパークのアトラクションで十分だ。
実際に、本物の廃墟に訪れた時には少しの不安が今の僕のように過剰な妄想を呼び、冷静では無くなってくる。現実味のない幽霊などは存在しなくても、"まだ"現実味のある死体などは出てきても可笑しくないだろうか……。
廃墟ということは、元々人が住んでいたということだ。人が踏み入れたことのない未開の地などよりも、一層恐ろしいものがある。どうして前住んでいた人がいなくなったのかを考えると僕の思考は完全にフリーズしてしまうのだった。
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