王子様の秘密

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「ねぇ、ねぇ、サリエル。これとこれをつけてみて」 アイルは笑顔で、赤いマントと紙で作った可愛らしい王冠をサリエルに差し出した。 今日は、こんな不思議な格好、奇抜な格好、普段は浮いている格好でも大目に見てくれる日、聖夜祭。毎年、奇跡が起こると言われるイベントまで、残り十一時間。 【これは?】 器用にマントと紙の王冠を受け取ったサリエルは、不思議そうに見つめた。 「ふふ。今日は一年に一度の聖夜祭! 恋人同士が、瞳に映るお互いの姿を見つめながら、甘いダンスを踊る! そして、仮装をした者たちは、どんちゃん騒ぎをする楽しい日よ! てな訳で、サリエルが王子様の格好をして出れば、ばれないわよ」 果たして、人間に、本物そっくりのクラゲの姿に化けられるのだろうか。そんな常識的な事を隣で、椅子の背もたれに項垂れながら、落ち込んでいるティムは考えた。普段なら突っ込めば、アイルから反撃があるのだが、この一週間、存在すら完璧に無視されたままだった。 その原因となった日記の内容をサリエルに笑って否定された事が、尾を引いている事も一部ある。 (あの、くそクラゲ! 絶対に笑ってる…) 殺気を込めた視線を、ふにゃふにゃとふざけて踊っているサリエルに向けたが、チラッと視線を投げただけで、無視した。 己は何をしているのかと小さなため息をついて、如何にも不幸そうな様子を醸し出しているティムの姿を横目で盗み見ながら、アイルは内心腹が立つ。 (この、根性無し! いっつも、私を子供扱いして、お兄さんぶっているかと思えば、急に根暗になるなんて!) アイルはティムを無視して、サリエルにマントをつける。 この居心地の悪い空気の原因は、互いに苛立っている事に気づかず、互いに無視しあって、更なる悪循環に陥っている事が起因している。 【聖夜祭ですか…】 若干暗い声で、サリエルが何かを思い出したのか、体に津波が走るかのように震えた。 「あ、故郷を思い出しちゃった?」 無神経な事を言ってしまったのではないかと、アイルは慌てて謝る。 【いえ、ちょっと…】 サリエルの歯切れの悪さから、何か不穏な空気を感じ、ティムとアイルは思わず視線を交わしたが、ハッと気づいて慌ててそらす。
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