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「…とりあえず、指示に従おう。互いの監視と安全の為に、絶対離れるな」
裕二が決断を下す。全員が頷きあうのを確認して、立ち上がる。
さっきの声が脳裏に浮かぶ。いつ、あんなことがあったんだろう。それに最後のは、俺だった――?
しゃらん。どこからか、鈴の音が聞こえた。同時に。
《そうだね、ぼくらのきぼうなんだから》
幼い自分のその時の声が、蘇ってきた。
22時12分。俺達は第二音楽室にいた。
第二音楽室は俺が通っていた頃から倉庫扱いだった。ここにあるのは殆ど使えないものだ。弦の切れたギター。音の出ないピアノ。 故障したキーボード。
「ごめん椋くん。手、握ってていい?」
震える声でナルミが話しかけてきた。怖いのだろう。無理もない。
「構わんよ」
「ごめんね。やっぱり怖いから…」
左手をぎゅっと握られる。右腕には侑菜がしがみついているから、状況が状況でなきゃ両手に花。
ピアノに腰を掛け、時間になるのを待つ。
不意に、ポロン…と、静かなピアノの音が流れる。急に強くなり、また静かなリズムに、けれどすぐに激しく。変化の激しいこの曲 は――どこかで聞いたことがある。
スピーカーから流れる音楽に耳を傾けつつも、警戒を怠らない。
「この曲…」
「ベートーヴェン…」
侑菜が呟いた直後に、ナルミの口から有名な作曲家の名が出る。
「ベートーヴェンのピアノソナタ…第23番ヘ短調「熱情」の…第一楽章」
その曲名も、どこかで聞いた覚えがあった。けど、思い出せない。
いつも流れてたような気がする。けど、どこで?
この曲が嫌いだった。けど、なんで?
8分ほどでその曲が終わった。すぐに、またピアノの音が流れる。
今度は、静かなまま流れる曲。この曲もまた――聞いたことがある。
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