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「…いっ…」  梨香が急に声を上げた。 「梨香?」 「いやっ…」  様子がおかしい。顔色は蒼白。足は震え、後ずさる。 「梨香っ!」  裕二が梨香を支える。梨香はしりもちをつき、裕二にしがみついて震えている。 「どうした、梨香」「梨香ちゃん、大丈夫?」  それぞれが心配して声をかける。けど、梨香の震えは治まらない。 「ぁ…っ、あぁっ…」  目から生気が失われてる。どうしたんだ、一体。  ブツッ、とスピーカーが鳴る。ハッとして時計を見ると、23時になっていた。 『カルテをご覧になってはいただけたでしょうか?』  オーエンだ。こんなときに。  梨香の震えは激しさを増し、裕二の背中に回された手にも力がこもるのが見えた。 『次の指示です。これで最後。化学室に行ってください。そこであなたを待っているモノがいます』  待っているモノ。それは、オーエンなのか、そうでないのか。 『リミットは23時30分。お急ぎくださいませ』  さっきと同じような終わり方で放送が切れる。  また残ったのは、静寂。梨香の呻き声により破られたそれは、音楽室のときのそれより遥かに嫌なものに思えた。 「…梨香、いけるか?」  俺は梨香にそう問が梨香は反応を示さない。ただ震え、裕二にしがみついている。 「…ゆっくりしよう、とりあえず。時間はあるから。梨香、深呼吸」  裕二が優しい口調で梨香を落ち着かせる。最初はなんの反応もしなかったが、次第に落ち着いてきたのだろう。深呼吸をし、口を開 く。 「…ごめんね」  梨香が弱々しくそう言った。この場にいる全員に対する謝罪だ。 「全然いいよ。もう大丈夫なの?」 「うん、大丈夫。心配掛けてごめんね」  ふらつく足で立ち上がるも、すぐに倒れてしまう。裕二が支えて、再びゆっくり立ち上がる。 「無理すんな。周りの力を借りればいいんだ、頼れ頼れ」 「…ありがと」  裕二が梨香に肩を貸したままゆっくり歩く。 「行けるか?」 「大丈夫。急ごう」
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