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 それは、いつのまにかそこに居た。  しゃらん、という鈴の音と共に。  大量の薬の乗った机の上。そこに。  しゃらん。  音を立てて、振り返る。  赤い鈴の、黒い、猫。 《おまえはいいな、じんせいたのしそうだ》  しゃらん。にー。 《こんなしゅじんでいやじゃないか?ぼくのとこにくる?》  しゃらん。にー。 《なにかいいなさい》  にー。しゃらん。  記憶が、呼び起こされる。  鈴の音と、共に。 「オー…エン」  ナルミの口から声が漏れる。オーエン――そうだ、こいつの名前は――。  思い出しかけた、瞬間だった。  ダァン。  何かが、叩きつけられたような音が――。 「――梨香ッ!」  嫌な予感がした。いいや、嫌な予感しかしない。  嫌な予感ってのは外れないもんだ。いくら願っても。  しゃらん。黒猫が机から飛び降りて走り出す。 「行こう、りょーくん、ナルミちゃん!」  侑菜が促す。俺達は急いで黒猫の後を追った。
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