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それからしばらく、P・M28型D-typeは考え込むようにその場で立ちつくしていたのだが、ふと、朝の光が穴から差していたので、それに興味を惹かれ、窓の外の景色に目をやった。
「ヒカリ、光、暖かい。カゼ、風、涼しい。ジメン、地面、堅い。雲、空、青い。人、犬、家、鳥、世界……」
彼は今、学習をしていた。道路を走る車(ここではタイヤでなく、ジェットエンジン等で地面を浮いて移動するものを指す)、見回りをする、自分とは姿形違う警護用ロボット。街中を歩くカップル、日なたで丸くなっている猫。小さくパンを千切る老婆、それをついばむ鳩。
全て、彼が初めて見る世界。全て、彼が今まで知らなかった世界。
(……僕は、何も知らない)
少年は、悩んでいた。何故、好美があんなに困惑の表情を見せていたのか、何故、自分を避けたのかを。
「私は学生で、育児とかそういうの、全然専門外だし、いきなりやれって言われても、正直無理なの!」
好美の言葉が、頭の中でこだまする。
「母さん、にも……知らないこと、ある……?」
誰もいない部屋の中で、一人呟く。何も知らない自分。育児を知らない母。
人は万能ではないことを、少年は理解し、同じく万能ではない自分自身を、この時痛感した。
「……。もっと、知ろう」
意を決し、少年は窓を開け、初めて外の地面を踏んだ。
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