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「後で謝らなきゃなぁ」
「相変わらず優しいわね、機械には」
相子は苦笑する。少々皮肉のある言葉だが、今の好美には、その言葉が嬉しかった。
迷うのは当然だったのかもしれない。しかし、あの少年が父の作ったものである以上、父が危険だと警告していたものである以上、自分はその責任を取らなければいけない。それは好美自身の、機械工学者を目指す者としてのプライドでもあった。
「さて、そうと決まったら、家に帰らなきゃ」
大きく伸びをし、好美は立ち上がった。
「今川好美さん、ですね?」
突然、別の声がした。二人が振り向くと、橋の端に、一人の黒いスーツ姿の男が立っていた。三十代程の、オールバックな髪型の端正な顔つきをした男である。それよりも目立つのは、彼の左右に、軍の使用する陸用白兵戦専用ヒューマノイドがいたことだ。全身が屈強な合金の装甲で覆われた金属の人形。その姿は、あの少年とはとても似ても似つかない。
「何か、用ですか?」
男に近付き、好美は訪ねた。
「申し送れました、わたくし、こういう者です」
軽く会釈をして、男は懐から名刺を差し出した。
「開発会社:スペリオル社員:川田直哉」
「先日行われた、D-4地区精密機作品出展会の作品を、我が社の社長が大変高く評価されたので、あなたに是非、我が社に一度来て頂きたいとのことです」
「つまり、正社員としての勧誘、ってこと?」
名刺を受け取り、好美は首をかしげた。
「すごいじゃない好美! スペリオルって言ったら世界でも有数の機械工学開発機構じゃない!」
相子は自分のことのように興奮している。
(あー、どっかで聞いたことがあると名前だと思ったら……)
好美は父親のメモ書きに書いてあった「スペリオル」という単語の意味をようやく理解した。けどメモには確か……。
「来て、いただけますか?」
川田が好美の顔を覗き込んだ。
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