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「ねぇ! 見て見てこれ!」
小柄で短髪黒髪の少女、今川好美(こうみ)は、満足げに新聞の切れ端を彼女に見せた。
新聞には好美の笑顔が載っていた。『D-4地区精密機作品出展会最優秀賞受賞者:「エアー・バナー」製作者、「今川好美」』と。
「はいはい、もうそれは分かったから……」
彼女より少し背の高い、肩まで伸びた茶髪が特徴的な親友、相馬相子は少しめんどくさそうに適当に返した。
好美がこの地区で最優秀賞を取るのは当り前の事なのだ。この周辺でマシンエンジニアをやっている学生なんて、好美くらいなものなのだから。
かといって、好美の機械工学者としての能力はけっして馬鹿にできるものではなかった。
今回の作品、背中に装着して、人間の飛行による移動を可能にする、電池式風力・エンジンの移動用機械、「エアー・バナー」も、好美のオリジナルであった。齢十八の学生が普通に作れる代物ではない。
しかし、この日の好美は朝からずっとこの自慢ばかりだったので、相子もいい加減対応に疲れていたのだ。
「もっと褒めてよ相子ぉ、すごいでしょ? すごくない!? すごいでずっ!」
スコーンと、プラスチックの下敷きが好美の額に突き刺さる。
「わーかったから、少し勉強させてよね。私は好美と違って機械工学得意じゃないんだから」
仏頂面を見せ、相子は再びノートに目をやった。
今ではあらゆる機会技術が発達し、こういった知識の重要性も、世間で求められるようになっていた。好美と相子の学校『三木原(さんきばら)北高校』の三年D組にもこの授業は取り入れられていたが、生徒人気は最悪の授業であった。
「ちょっと悪いんだけど…」
と、一人の男子生徒が、二人に声をかけた。眼鏡をかけた、少し背の高い黒髪の生徒。少し抜けているが頼りになる、この学校の生徒会長である人物。三年F組の矢萩信治、通称ヤッハーである。
「あれ、ヤッハーどしたの?」
額に突き刺さった下敷きを引き抜きながら、好美は問い掛けた。
突然に、信治は両手に抱えていた紙束を机の上にどんと置いた。
「い゛!?」
途端に好美と相子が顔をしかめる。
「二学期の決算報告書の提出、よろしくね、会計さん」
信治の爽やかな笑みが、逆に憎たらしい。二人はそう思った。
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