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「じゃ、僕は僕で仕事があるから」
言い残して、ひらひらと手を振りながら、信治は去っていってしまった。
二人は普段は特に仕事のない生徒会の会計役をしているのだが、学期末、特に文化祭絡みのこの時期の集計の仕事は、二人がもっとも苦手とする仕事であった。
丸一日かけて、学校の支出集計を計算しなければないのだ。もちろん、計算ミスはやり直しだ。
去年は好美が支出合計の0を二桁も増やしてしまい、大目玉を食らった、なんて失敗談もあった。
「うへぇ……」
二人は同時に机の上に伸びてしまった。
「何であえてめんどい仕事につくかねぇ」
小さく鼻息を吐いて二人を眺めていたのは、相子の二つ離れた席に座っている、茶髪のつんつん頭の男子生徒。生徒会書記であり、好美達のクラスメイト、米倉将吾、通称ヨネであった。
「ヨネがじゃんけんで勝ったからでしょ」
ムスっとした表情で、相子は答えた。
「ヨネはやめろって言ってるだろ」
相子を軽く鼻で笑って、将吾はその場を去った。
「それじゃ、いつも通りうちで仕事しよっか」
苦笑を交じえながら、好美は鞄を手に取った。
好美の家は、このあたりではA~Dに分別させられている機械街の一つ、D-4区にある、比較的大きな研究所である。
元は彼女の父、故、今川修一(昔は優秀な機械工者であったが、三年前に飛行機事故で死亡したと、好美は聞いている)の研究所なのだが、今では好美が四割方改築し、屋根には巨大アンテナがくるくる回り、入り口の左右にはガンカメラ(監視カメラに銃がついたものと考えてもらえればよい)が取り付けてある。
「また、改造したのね…」
相子はここにはよく行き来しているのだが、毎回家が武装したり、謎な機械が取り付けてあったりしているので、しょっちゅう驚かされている。
「ま、とりあえず入って」
そう言って、好美はドアの横に取り付けてあるセンサーに手を通した。スピーカーから「OK!」とノリのいいラッパーのような声が出て、ドアの錠が開いた。
「さぁて、とっとと報告書書いて早く終わらせよっ」
両手いっぱいの報告書を抱えて、相子はつかつかと歩き始めた。
「あ、ちょっと待っ――」
好美が相子を呼び止めるのと、天井に仕掛けられたガンカメラが相子の足下を発砲したのは同時であった。
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