最終兵器PEACE MAKER

8/28

12人が本棚に入れています
本棚に追加
/28ページ
 そして、カプセルを覆うガラス戸が、冷蔵庫のような音を立てて、上に開き始めた。   「……」    数秒の沈黙があった。少年の体は水びだしで、髪も下に垂れ下がっていたが、二本の脚は間違いなく、その体を地面に支えていた。   「…生きてるの?」    好美は恐る恐る、目を閉じたままの少年に近づいていった。    ピチャッ    流れ出た液体は好美が歩くたびに音を立てていた。その音に反応したのか、少年はうっすらと、その瞳を開いた。好美は一瞬たじろいたが、真っ直ぐとその少年を見つめた。   「…ボク……おこ、起こし、く……れた……誰?」    少年の言葉はかなり聞き辛いものであった。全身は激しく痙攣し、立っているのがとても辛そうであったが、その瞳は好美をじっと見詰め、何かを確認しているようであった。そして、必死に、好美に何かを伝えようとしているのが分かった。   「……出ら、出られた…だ」    そう言うと、少年は力なく笑み、そのまま好美に倒れかかり、その両手で好美を振るえながらも抱きしめた。好美と相子は目を丸くした。   「え゛!? いや、あの!?」    一瞬にして、好美はパニックに陥った。   「…よか、た、会い……かったよォ……」    手が、好美の肩を強く握っていた。その指の一本一本が小さく震えていた。そして少年は、瞳から大粒の涙を流していた。   「怖か、暗……た……さみ、さ寂し、かった」   「うわ、ちょっと? えっと、あ~……」    好美は顔を真っ赤にして目を回してしまった。年頃の女の子が年頃の男の子(しかも見ず知らず)にいきなり抱きつかれて泣かれたのだから無理もない。相子はもはや圏外となっていた。   「あ……もう、ダメ、だ」   「ふぇ?」   「ごめ……ン、ネ……ギ、94……セント……消シ、ツ……ちょっと……寝……ル……ヨ」    そこまで言うと、彼は力なく、その場に倒れてしまった。   「……」    再び沈黙した。好美ははっと正気に戻り、ほてった頭をぶんぶんと振り回した。  彼の息は、比較的落ち着いている。顔色こそ悪いが、恐らく命に別状はないだろう。彼自身が、「眠る」と言ったのだから。   「相子、運ぶの手伝って!」   「うぇ!? うぁ!? あ、うん!」    そして、好美と相子はこの少年を、とりあえず部屋のソファで休ませることにしたのだった。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加