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そして、カプセルを覆うガラス戸が、冷蔵庫のような音を立てて、上に開き始めた。
「……」
数秒の沈黙があった。少年の体は水びだしで、髪も下に垂れ下がっていたが、二本の脚は間違いなく、その体を地面に支えていた。
「…生きてるの?」
好美は恐る恐る、目を閉じたままの少年に近づいていった。
ピチャッ
流れ出た液体は好美が歩くたびに音を立てていた。その音に反応したのか、少年はうっすらと、その瞳を開いた。好美は一瞬たじろいたが、真っ直ぐとその少年を見つめた。
「…ボク……おこ、起こし、く……れた……誰?」
少年の言葉はかなり聞き辛いものであった。全身は激しく痙攣し、立っているのがとても辛そうであったが、その瞳は好美をじっと見詰め、何かを確認しているようであった。そして、必死に、好美に何かを伝えようとしているのが分かった。
「……出ら、出られた…だ」
そう言うと、少年は力なく笑み、そのまま好美に倒れかかり、その両手で好美を振るえながらも抱きしめた。好美と相子は目を丸くした。
「え゛!? いや、あの!?」
一瞬にして、好美はパニックに陥った。
「…よか、た、会い……かったよォ……」
手が、好美の肩を強く握っていた。その指の一本一本が小さく震えていた。そして少年は、瞳から大粒の涙を流していた。
「怖か、暗……た……さみ、さ寂し、かった」
「うわ、ちょっと? えっと、あ~……」
好美は顔を真っ赤にして目を回してしまった。年頃の女の子が年頃の男の子(しかも見ず知らず)にいきなり抱きつかれて泣かれたのだから無理もない。相子はもはや圏外となっていた。
「あ……もう、ダメ、だ」
「ふぇ?」
「ごめ……ン、ネ……ギ、94……セント……消シ、ツ……ちょっと……寝……ル……ヨ」
そこまで言うと、彼は力なく、その場に倒れてしまった。
「……」
再び沈黙した。好美ははっと正気に戻り、ほてった頭をぶんぶんと振り回した。
彼の息は、比較的落ち着いている。顔色こそ悪いが、恐らく命に別状はないだろう。彼自身が、「眠る」と言ったのだから。
「相子、運ぶの手伝って!」
「うぇ!? うぁ!? あ、うん!」
そして、好美と相子はこの少年を、とりあえず部屋のソファで休ませることにしたのだった。
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