―第一章―

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ライトは簡単に身支度を 済ませるとまっすぐ広場には 行かず、村の端に植えられた 魔法樹のもとへと歩いて行った。 これはライトが彼の師匠であり 親代わりでもあったサンダーに 拾われてこの村に来た時 二人で植えたものだ。 「お師匠様、この樹を植えてから 10回目の感謝祭がきました。 皆、すごく張り切っていて 今年はいつも以上に盛り上がり そうです」 感謝祭がくる度、毎年欠かさずに している師匠への報告。 そして、その時には必ず 問わずにはいられない ことがあった。 「どうして、突然いなくなって しまったのですか…?」 サンダーはこの樹を植えてから 5回目の感謝祭が訪れる前の日に 忽然と姿を消してしまった。 祭りの準備を終えたライトが 帰宅した時には、変わった形の 杖と白紙の術書しかサンダーの 持ち物は残されていなかった。 ライトは一晩中村の周辺を 捜し回ったが、遂に見つけること 叶わず、今だにサンダーの 消息は解らず仕舞いだ。 「…それにしても 大きくなったなー、お前。 お師匠様に魔力いっぱい 分けてもらったもんなー」 堂々とそびえ立つ魔法樹は 育てる者の注ぐ魔力によって 成長する。 サンダーに丹精込めて育てられた 樹の高さは今や天にも届くかと 錯覚させられるくらいだ。 それだけで彼の魔力の高さが 窺える。 それ程の魔導師であれば 何者かにさらわれたと 考えるのは難しい。 だから、『きっと大丈夫』と 信じてはいるのだが、それでも 彼の安否を心配しないでは いられない。 「ダメだな、俺…。 よし、皆の所に行こう。 今日は祭りなんだから くよくよしてたらペイルに 叱られる。」 そして、今年の報告を終えた ライトは今度こそ広場へと 足を向けたのであった。
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