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「お待たせ致しました、マティーニでございます」
「ああ、ありがとう」
銀髪の老紳士は暫しマティーニに見入っていたが、何かを考えおおせた様子でカクテルグラスを手に取り、口に滑らすように傾けた。
駅から少し離れた都心の雑居ビルの7F、鉄製の重厚な扉を隔てると雰囲気が一変する。
週初めの早い時間帯、銀髪の老紳士以外には誰もいない店内は、バロック様式を意識しており、厳かな空間を愉しむ事ができ、クラシカルな曲が音を絞られ、か細く響き渡る。
広めのハイカウンターには背の高い椅子が7、8席だろうか、連なり、バックバーには店のカラーが反映しており、愉しめる酒が多い。そしてこのBARの象徴とも言えるだろう、バックバーを分けた中央部の壁には世界三大絵画の一つ、“夜警”のレプリカが収まっている。
銀髪の老紳士に縁の深かった友人の店であり、海外の暮らしが長かった老紳士にとっては実に30年ぶりの再訪であった。
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