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昼間だというのに薄暗く、溝の臭いが微かに漂う路地裏。
そこを息を荒くして駆ける青年がいた。
ばしゃりと水溜まりを踏んで靴がぐしょ濡れになっても気にも留めない。
彼は指が三本失われた手でボストンバックを抱き抱え、何度も心配そうに後ろを振り返っていた。
しばらく走って、息が続かなくなった彼は、汚れた壁に背中をついて息を整えた。
青年は肩で息をしながら呟く。
「撒いた、か……?」
「逃げても無駄無駄」
と女の声。
側に人がいる訳でもない。その声は空から降ってきた。
「ひっ……!?」
青年は慌てて駆け出し、乳酸が溜まった脚をさらに酷使する。
急ブレーキ。
青年の前には突如女が現れた。彼女は分厚いゴーグルをして、口にはパイポをくわえていた。
「無駄だって言ったのに」
「し、死ねェェ!?」
と青年。
突如、起こり得ないことが起こった。
女に向けられた青年の人差し指が乾いた音と共に飛んだのだ。
飛んだというより、打ち出されたと表現した方が正しいかもしれない。
その攻撃を予測していたかの様に女は体を捻って避けた。
指が剥き出しの下水パイプを貫く。
漏れ出す汚水がばしゃばしゃと流れ落ち、ぎとぎとに汚れた地べたを更に汚した。
女が口にくわえていたパイポを指で挟むと、それはマジックでもしている様に短剣へとすり替わった。
女は短剣を逆手に握り、後ずさる青年に刃を振りかざす。
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